80代の男性患者さんが天国へ旅立っていかれました。穏やかな表情で旅立った男性。
しかし男性のご家族は面会に来ることが難しい状況でした。
男性は最期の時間をどのようなお気持ちで過ごされていたのでしょうか。
職員と過ごした、いのちの時間についてのお話です。
ご家族のこと
男性には奥様と、遠方にお住まいの二人の子どもさんがいらっしゃいました。奥様も高齢。奥様は車をお持ちではありましたが、リスクを考えて運転は控えておられました。
子どもさんは県外在住。それぞれに家庭があり、頻回に会いにくることは難しい状況でした。それでも出来るだけ時間をつくり面会に来ておられました。
看取りのとき
男性は体調を崩し治療のための入院生活を送った後、私が勤務する病院へ転院になって来られた方でした。治療は終えたものの、体調は小康状態といったところ。転院後は発熱を繰り返していました。
徐々に体力は落ち、点滴で命を繋ぐ日々。最後のときが近づくにつれ、痰の量は増え全身のむくみも増強。男性の身体は旅立つ準備を始めていたので、必要最低限の栄養だけを求めていました。
これ以上点滴で水分を入れ続けることは男性の身体に負担をかけることにもなる。医師と相談しながら点滴の量も調整。点滴を減らしていったことで痰の量は減り、むくみも少しづつ改善していきました。
最後の日
その日、男性に気持ちよく入浴していただきたい、そして身だしなみを整えてあげたい。そんな思いから丁寧に入浴のお手伝いをさせて頂き、きれいにヒゲを剃り、口の中まですっきりとケアさせて頂いた日勤スタッフ。
そして私は夜勤者として男性のことを引き継ぎました。男性の顔つきから、男性の命の時間が長くはないであろうことは感じとれました。
今日かもしれない…
ご家族へ連絡したものの、やはり直ぐに来ることは難しいとのこと。
それならばできることをしよう。もうひとりの夜勤者と共に、できるだけ男性と過ごす時間をつくりました。
最後の呼吸
男性は浅く速い呼吸と無呼吸(10秒以上呼吸が止まる状態)を繰り返し、そして下顎呼吸(下顎を上下させるような動きで行う呼吸)へと変化していきました。
もうすぐ旅立たれる…
急いでご家族へもう一度連絡をしました。すると、今こちらに向かっているとのこと。
ご家族が到着するまでは頑張ってほしい…けれど間に合わないかもしれない…男性へご家族がもうすぐ到着されることを繰り返し伝えます。
しかし男性の心拍数はだんだんと落ちていき呼吸の回数も減っていきました。そして最後の呼吸。
ご家族が到着されたのは数分後でした。
お見送り
医師が男性の労をねぎらいながら、ご家族へ最後の時間を伝えます。
「よく頑張ったな」ご家族が男性に声をかけます。
男性は穏やかな表情で眠っていました。長い人生、本当にお疲れさまでした。
お別れのとき、夜間は職員の数も減るためお見送りができる人数が限られます。しかし男性が退院されるとき、ちょうど次の勤務者が早めに出勤していました。
勤務時間前でしたが男性のことを伝えると「一緒に見送っていいですか?」と。そして、いつもより多い人数で男性を見送ることができました。医師と看護師みんなで見送らせて頂きました。
自己満足ですが、皆でお見送りができて嬉しかったです。
男性の思い
入院された当初は簡単な返事はされていた男性でしたが、看取りの時期には言葉を発することはほとんどありませんでした。
男性がどのように思い過ごされていたのか?想像でしかないのですが、ご家族それぞれの立場を考えられた上で、ご家族へできるだけ負担をかけないよう、一人で旅立つことを選ばれたのかなと…
人生の最後の貴重な時間に私たち職員と一緒に過ごすことを選んでいただき本当にありがとうございました。
ゆっくりと休んでくださいね。
最後までお読み頂きありがとうございました。
皆さんと、皆さんの大切な方が幸せを選んでいけますように。
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