以前、勤務していた施設での話です。
そこには70代後半の女性が入所されていました。そして女性には医師として勤務されている息子さんがいらっしゃいました。
母親思いの優しい息子さん。女性にとって自慢の息子さんだったと思います。
食べたいけれど…
女性は食べることが好きでしたが、嚥下状態(食べ物や飲み物を口に入れてから胃へ送り込む一連の動作)が悪く、食事中にむせることが度々ありました。
対策として女性が食べやすいように食事の形態を工夫したり、嚥下体操(飲み込む際に必要な、口・喉・首などの筋肉を鍛える体操)を行ったりしていましたが状況はあまり変わりません。そのため誤嚥(飲食物や唾液などが誤って気管に入り込むこと)し、発熱されることもありました。
※参考:健康長寿ネット【嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)】はこちら
口から食べるのは難しい…そろそろ他の方法が選択肢になるのではないか?
職員の中では、そのように感じていました。誤嚥が続くようなら、女性にとってもリスク(誤嚥性肺炎など)になる…
女性はどう思っているのだろうか?
先ずは女性の意思を確認する必要性があります。しかし女性の意思を確認しようにも、女性は話をすることができませんでした。食事の時間は嬉しそうな表情をしている女性だけど、むせたり熱が出ることは苦しいはず。
そこで女性の担当看護師が息子さんに、今後のことをどう思われているかを確認することにしました。
食べさせてあげたい
息子さんは「食べさせてあげてください」と、おっしゃったそうです。
医師である息子さんは、誤嚥することによるリスクは誰よりも知っている。それでも敢えて『口から食べさせてあげたい』と希望されたのです。女性にとってのリクスよりも女性にとっての楽しみを優先された息子さん。
女性の人生の質が良くなることを望まれたのです。
これは、私の個人的な思いですが、人生の最終章を迎えた方であれば好きなものを食べて頂きたい。私も息子さんと同意見です。人生に楽しみを持てずに日々過ごすよりも、何か一つでも好きなことがあれば…と思うからです。
中には食事をすることに苦痛を感じていらっしゃる方もいるので、あくまでも食事をしたいと望んでいらっしゃる方に対してですが…
尊厳のある最期の過ごし方について、改めて考えるきっかけになった出来事でした。
自分ならどうしたいか?
家族であれ、他人の人生のことを決めることは難しいことです。本当にこれで良いのか?と悩んでしまいますよね。
もちろん、ご本人にお話を伺うことができれば、それが一番ですが、認知症などでは自身の思いをうまく伝えることができない場合もあります。
「こんなこと言う人じゃなかったのに…」と感じてしまうこともあるかもしれません。
そんなときは、その方の生きてきた歴史に目を向けてみてください。その方が何を大切にされていて、何を楽しいと思い、何を喜ばれていたのか?
その方がどんなときに生き生きとされていたのか?
視野を広げてみることで、何らかのヒントが見えてくるかもしれません。
それでもやっぱり悩んでしまうよ…というときは、自分の人生に置き換えてみましょう。
こんなとき自分だったらどうしたいか?どうされたいか?
そこに答えが見つかるかもしれません。
もちろん他人の人生を決定しないといけないときに、100%正しい選択をすることは難しいでしょう。けれど100%でなくとも、その方のことを心から思い、そのときにできる最善の選択ができたのであれば、それが一番なのだと私は思っています。
皆さんと、皆さんの大切な方が幸せを選べますように!
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