人生の大先輩、大正・昭和・平成・令和と激動の時代を生き抜き、皆に愛されていた女性が天国へと旅立っていかれました。
最後は愛する我が子の手を握りながら…
今回は一世紀を生き抜いた女性のお話です。
超高齢者の看取り
女性は、私が生きてきた人生の二倍以上を生きてこられた大先輩。いわゆる超高齢者といわれる方でした。長い人生の歴史の中では戦争なども経験され、私たちが想像できないほどのご苦労もあったと思います。
そんな激動の時代を生きて来られた女性。とってもチャーミングで可愛らしく、認知症もあったため、ときにトラブルもありましたが、皆が笑って許してしまう。
「ありがとー」と可愛らしい声(大先輩に対して失礼な表現であったら申し訳ありません💦)で言われてしまうと、周りは思わず笑顔になってしまう…
そんな素敵な女性でした。
子ども、孫、ひ孫、たくさんのご家族に大切にされていた女性は、ご家族にとってもかえがえのない存在だったのだと思います。
100歳になっても車椅子を使って自分でどこにでも行ける女性。何度も体調を崩しながらも、そのたびに乗り越えていく。繊細な見た目とは違う力強さを秘めた女性の姿に、私たち職員も力をもらっていました。
けれど時が経ち、徐々に身体を動かすことも言葉数も減っていく女性。看取りのときが近付いていたのです。
旅立ちの前
ここ最近、食事がほとんど取れていなかった女性。
その日はずっと目を閉じており、お話をされることもほとんどありませんでした。血圧もいつもより低く、手足は冷たくチアノーゼ(血液中の酸素が不足することで皮膚や粘膜が青紫色に変色する状態)も見られるようになっていました。
昼間、娘さん・お孫さん・ひ孫さんが面会に来てくださいましたが、女性は目を開けることはありません。それでもご家族は、女性と記念撮影をしたりと大切な時間を慈しむように過ごしておられました。
ご家族とのわずかな時間(面会時間に決まりがあるので)を過ごされた女性、その後、徐々に血圧は下がり発熱も見られるように。心拍数も130台。時折170台となることも。
女性の心臓は全力で最期の時間を刻んでいたのです。(※ご家族の意向については、女性の年齢的なこともあり延命は希望されていませんでした。)
最後のときは近いかもしれない…
そう思い、真夜中ではありましたが、キーパーソンの娘さん(昼間面会へ来られた方とは別の娘さん)へご連絡しました。
「年齢的なものもあり、〇〇様にとってきつい状態だと思います。しかし、またお元気になることもあるかもしれません。〇〇様の生命力次第ですので、大丈夫だとお伝えすることも、最後のときがいつになるともお伝えできません。これからどうなるかは私たちにもわかりませんが、ご家族が来られたら〇〇様もきっと安心されると思います。良かったらお顔を見にきて頂けませんか?ただ、夜中ですので難しいのであれば無理はされないでください。」と娘さんへお伝えしました。
女性は超高齢者。娘さんも高齢です。無理をお願いすることはできません。
しかし娘さんは悩むことなく、「すぐに行きます。」と返事をしてくださり、30分ほどで女性の元に来てくださいました。
ありがたい…
どんなに私たち職員が女性のことを思っていても、やはりご家族の力にはかないません。娘さんが傍にいてくださるのなら安心だ…
ホッとした瞬間でした。
母娘の時間
娘さんは当初、女性の手を握ることをためらわれていました。季節は冬。真夜中に来て下さった娘さん。自身の手が冷たいからと女性に触れることをためらっておられたのです。
そんな娘さんの優しさが、無機質な病室の空気をあたためてくれたように感じました。
「手を握ってあげてください。安心されると思いますよ。」とお伝えすると娘さんは女性の手をそっと握り、「お母さん、頑張ってね。いや…もう頑張ってねとは言えないね…。よく頑張ったね。」と声をかけます。
すると、それまで反応がなかった女性が、安心した表情で娘さんの方へ顔を傾け「ん…」と返事をされたのです。娘さんが面会に来られてから、女性の心拍数は100台まで低下。
家族の力を改めて感じた瞬間でした。
最後の呼吸
娘さんの面会を機に女性の心拍数は比較的安定していました。このまま小康状態が続くかもしれない…
女性の状態が安定したことは嬉しいことですが、最後がいつになるかはわかりません。この状態が長引くと娘さんの疲労にもつながる…
娘さんへ状態をお伝えし、一旦帰宅されることも提案しました。「夜中ですし、無理はされないでください。また状態に変化があればご連絡しますから。」と。
けれど娘さんは「このまま居てもいいですか?」と付添を希望されたのです。
「私が一番(母に)迷惑かけたんです。だから傍にいます。」
娘さんはそのように話されましたが、女性の表情を見ると、そんな娘さんであったからこそ、かわいくて仕方なかったのではないかと思えました。娘さんと過ごす時間は、女性にとってかけがえのないものだったのではないでしょうか。
そして二時間ほど経ち女性の呼吸に変化が。下顎呼吸となり無呼吸も見られるようになっていました。
娘さんへ「他に会いたいと思っておられる方がいらっしゃったら連絡をされてください。」とお伝えしましたが「姉に何度も連絡してるんですが、携帯をそばに置いてないのか、(電話に)出ないんです…」と返答が。
「そうなんですね…。もうすぐ呼吸が止まるかもしれませんので、傍にいて差し上げてください。」と再度お伝えし、女性に起きている身体の変化(チアノーゼの増強など)を一緒に確認していただきました。
女性が最後を懸命に生きておられること、命の期限が迫っていることを改めてお伝えし、今の状態を娘さんに認識していただくことで、女性との時間をより大切に過ごしていただきたい。
最後に大切なのは、女性が「愛されている」と感じていただけること。娘さんは、女性の命の時間を理解され手を握り続けました。
その後しばらくして、女性は静かに最後の呼吸をし、長い人生を終えらえたのです。
愛する娘さんに見守られて。
母娘の絆を感じたお看取り。大切な時間を共有して頂きありがとうございました。
コメント