私の父は悪性リンパ腫で亡くなりました。
父が治らないとわかったとき、私たち家族は、父を故郷へ連れて帰る選択をしました。
最後は家族の傍で過ごさせてあげたい。
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親の看取り。治療しても治ることのなかった父の病気。

父の病気が見つかったとき、父の住む地域には血液内科の常勤の医師がおらず、治療ができない状況。そのため父は、自宅から車で3時間かかる大学病院へ入院となりました。大学病院には信頼できる先生や看護師さんがいて下さったおかげで、父も安心して治療を受けることができ、私たち家族も父のことを安心してお任せすることができました。
父は入院当初より病状が進んでいたため、治療でも思うような効果を得ることはできず。それでも先生方は、父の回復に向けて懸命に治療して下さっていたし、父も治ると信じて辛い治療にも耐えていました。
何度も入退院を繰り返し、徐々に力を失っていく父。もう治ることはない…そして、最後の場所を決める時期となりました。
父を生まれ育った故郷へ連れて帰る選択

治療を行って頂いた血液内科病棟では、主治医、担当の看護師さんをはじめとするスタッフの皆さんから本当に良くしていただきました。父のことを理解し、こんなに親身になってくださる場所は他にはないだろう。このまま信頼できる皆さんにお願いしたい。最後まで見届けてほしい。
けれど、看取りまでとなると血液内科病棟から緩和ケア病棟に移らなければならない。今までの先生や看護師さんには会えなくなる。同じ病院内であっても全く違う環境になる。環境の変化が父の心理面にどう影響するだろう?私たち家族が傍に居れたらいいけど、病院までは父の家からは車で3時間、私の自宅からも2時間かかる。面会に行くのも簡単ではない。
それならば父が生まれ育った故郷で安心して最期の時間を過ごしてほしい。家族の傍で過ごしてほしい。最期をできるだけ一緒に過ごそう!家族で話し合い、父の気持ちも確認し、私たちは父が最後を迎える場所を故郷にすることに決めました。
在宅への退院ではなく、緩和ケアチームのある病院への転院

父を連れて帰るとき、自宅へ連れて帰る選択肢もありましたが、父と母は二人暮らしであり、母一人では介護が難しいこと、私もフルタイム勤務で子どももいたので手伝いにいくことは難しい状況。父の痛みも強かったこともあり在宅での生活は断念しました。
そうなると今後の病院をどうするか?当時、私は看護師として介護老人保健施設(老健)に勤務していました。そして老健の隣には併設の病院があり、そこには緩和ケアチームがありました。
※緩和ケアチーム:患者の身体的・精神的苦痛を和らげ、その人らしい生活を支援する専門チーム
血液内科の病棟はありませんでしたが、ありがたいことに血液内科で経験を積まれた医師もいらっしゃいました。
迷っている時間はない!すぐに併設病院の地域連携室へ相談に行き、父を受け入れてもらえるよう調整していただき、結果として父を故郷へ連れて帰ってくることができたのです。
併設病院は私の自宅から徒歩5分の距離。これからは毎日面会へ行ける!
受け入れていただいた併設病院のみなさま、本当にありがとうございました!こうして父が最後を過ごす場所が決まったのでした。
苦痛の4つの種類

最後の場所を考えるとき、老衰なのか、癌の末期なのかなどにもよって検討していく必要があります。延命を望んでいないにしても、苦痛を取ってあげることは重要だからです。
苦痛は主に4つの種類に分類されます。
1.身体的苦痛
2.精神的苦痛
3.社会的苦痛
4.スピリチュアルペイン
1.身体的苦痛
・痛み:がん性疼痛など、全身のさまざまな部位で起こる痛み
・息苦しさ:呼吸困難感
・だるさ:全身倦怠感
・日常生活動作の支障:自立した生活が困難になること
・消化器症状:吐き気、嘔吐、腹部膨満感など
2.精神的苦痛
・不安:病状や治療に対する漠然とした不安、将来への不安など
・抑うつ:診断時や再発時などの悪い知らせによる抑うつ状態
・孤独感:入院生活による孤立感や、家族や友人との分離による寂しさ
・いらだち:病状や治療に対するフラストレーション
・自己イメージの変化:容姿の変化や身体機能の低下による自尊心の低下
・睡眠障害:不安や環境の変化による不眠
3.社会的苦痛
病気や治療に伴って生じる社会生活上の問題や困難から生じる苦痛のこと。
・仕事上の問題:治療に伴う辞職、廃業、休職、配置転換、病気について職場にどう伝えるかの悩み
・経済的負担:治療費の負担、収入の減少による生活費の問題
・家庭内の役割変化:家族内での役割を果たせなくなることによる苦痛
・人間関係の変化:周囲の理解不足や偏見による人間関係の変化、社会的活動の制約による孤立感
・社会的役割の喪失:社会生活上の役割を果たせないことによる苦痛
※社会的役割とは、社会の中で私たちが持つべき行動や責任のこと。例えば、家族の中では「親」や「子ども」、学校では「先生」や「生徒」といった役割があります。
4.スピリチュアルペイン
人生の意味や目的に関する苦悩、死への恐怖、やり残したことへの後悔などから生じる苦痛。
・「なぜこんなに苦しい思いをしなければいけないのか」「生きていても意味がない」といった人生の意味への問い
・他者との関係を失うことによる孤独感や空虚感
・自立と生産性の喪失による無価値感、「家族に迷惑をかけるだけ」という負担感
・将来が見えないことで現在を無意味に感じる、死が近づいていることへの不安
これらの苦痛は相互に関連し合い、全人的苦痛として捉えられます。特にがん患者とその家族は、これら4つの苦痛に直面することが多いとされています。
苦痛を取り除く場所を考える
苦痛は人それぞれです。ご家族が傍にいるだけで苦痛が和らぐこともあります。看取られる方が望む場所もあるでしょう。病院だけは嫌だ!とか、家で最後を迎えたい!とか人それぞれです。
看取られる方の思い、ご家族の思い、皆の思いをすべて叶えていくことは難しくとも、その中で最善の場所を選んでいけたらいいですね。
今日も、皆さんと、皆さんの大切な方が幸せを選んでいけますように。
※厚生労働省ホームページよりがん診療連携拠点病院を探すならこちら
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